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新蔵物語

創業以来、開拓者精神をもって酒造りに勤しんできた梅乃宿。 清酒を巡る環境が大きく変化する中、ブランドコンセプトである 「新しい酒文化を創造する蔵」を体現すべく奮闘してきた「蔵」を巡るものがたり。

新蔵ものがたり 第17回

海外展開挑戦と挫折、そして再び

ここ数話は、4代目の暁から5代目の佳代への代替わりを含め、梅乃宿の変化と進化をお話してきました。今回は梅乃宿の海外展開について、お話をしていきたいと思います。

梅乃宿の商品が最初に海を渡ったのは、梅酒の本格製造を開始した2002年(平成14年)のことです。第10話でふれたように、大手問屋から声をかけられて、数十社と一緒にアメリカの展示会に足を運ぶようになったのがきっかけでした。

2010年(平成22年)前後になると、アジアや中東、オセアニア、ヨーロッパ、北米諸国へと輸出先は広がっていきました。

リキュールの好調と相まって、梅乃宿の海外への進出は社内に活気をもたらし、さらには業界やお客さまの耳目を集めることにもつながりました。

ただし、すべてが順風満帆というわけではありませんでした。2004年(平成16年)に本格進出を試みたアメリカでは業績がなかなか上がらず、営業戦略の練り直しが必要になっていました。

不振の理由は、現地の販売代理店に頼って商品を出荷していたことにありました。アメリカは広く、合衆国の名が示す通り各州が独自の法律を持ち、酒類の販売制度も州によって異なります。また、バーボンなど強い酒を好むなど、アルコールを楽しむ文化自体が日本とは大きく違っていました。そうした現地情報は、現地と密に関わらないと分からないものです。現地を深く知らないまま、ある意味、代理店任せで動いたことがつまずきの原因だったのです。

このように、アメリカに限らず海外進出では、国や地域ごとの法律や文化の壁に阻まれ、苦戦を強いられることがしばしばでした。

後に取締役となる髙橋は、世界市場への参入の厳しさを見て「市場経済のグローバル化やITの発達に伴い、世界のさまざまな情報を共有しやすくなっていても、現地の真の姿を把握するのは難しい」と実感したといいます。確かに、各国・地域ごとの歴史的背景や食文化、そこに住む人々のこだわりを踏まえず、「日本で人気の商品ですよ」と自分たちの商品をただ持っていって成功できるほど、商売は甘くありません。日本のお客さまや市場の動向・好みに常にアンテナをはってより良い商品作りに励んできたように、それぞれの国・地域のマーケットを深く知るための仕組みが必須なのは明らかでした。

共鳴できるパートナーと共に

アメリカ進出は厳しい船出になったものの、アジア圏を中心に輸出は続いていきました。ただ、規模は決して大きくなく、梅乃宿の売上における輸出の存在が際立つことはありませんでした。

その流れに変化が訪れたのが2010年代後半です。「もう一度、輸出戦略を練り直して攻めに転じよう」と方針を定め、アジアの拠点として重視してきた台湾についても、2017年(平成29年)に事務所を開きました。

台湾には、最初の進出から20年来の付き合いのある代理店があり、台北の量販店や百貨店を中心とした販路は構築されていましたが、飲食店に対する流通網は小規模なものでした。ご存じのように台湾はグルメの国で、外食が盛んです。外食という巨大市場に梅乃宿の商品を根付かせるため、髙橋をはじめとする営業部隊は動き、飲食店を中心とした新たな販路開拓のために何社もの代理店と面談を重ねました。それが2019年(令和元年)頃のことです。以来、2022年(令和4年)までの3年間で、台湾の売上は、コロナ禍の影響下にも関わらずリキュールを中心に約6倍に跳ね上がっています。

さらに、売上と共に台湾における梅乃宿の知名度も向上。台湾のコストコが梅乃宿の商品を取り扱うようになりました。コストコの本社はアメリカで、欧米を含め店舗網は世界中に広がっています。台湾のコストコでの評判は当然、世界に広がることとなり、その効果もあって、梅乃宿の商品を取り扱う国は、今では25カ国に広がっています。

大手の酒造メーカーから地酒蔵まで、さらには他の酒類のメーカーも含め、酒を扱う多くの競合が世界に目を向け、シェア拡大を狙っているのが今という時代です。幸いにも現在、梅乃宿には追い風が吹いていて、取り引きを求めるオファーは後を絶ちません。そうした流れを一過性のものにせず定着させるため、まずは日本と食文化が近く、梅乃宿の日本酒やリキュールが受け入れられやすいアジア圏の市場で一層の伸びを果たすべく、中国やアセアン各国でも共鳴できるパートナーを精力的に探し、販売網を構築する動きを活発化させています。海の向こうのことながら、その熱気は、奈良の吉田家の庭先に棲む梅の木の私にも伝わってくるほどです。

何ごとも、挑戦すれば必ず成果を上げられるとは限りません。それでも、綿密に調査・分析・検討を重ねた上で決断し、舞台に上がり挑戦しなければ、決してチャンスをつかむことはできない・・・。このものがたりを語るほどに、常に挑戦し続けてきたからこそ今の梅乃宿があるという思いが強くなるのを感じています。

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