梅乃宿とは
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梅乃宿のパイオニアたち

酒を造るということは、日本の文化を継承するということ。 酒文化の伝道する梅乃宿のポリシーをご紹介します。

SEASON 04

梅乃宿ストーリー

第5回 【若き清酒の作り手たち】杜氏制度から社員による清酒造りへ

梅乃宿では2年前に杜氏(とうじ)制度を廃止、社員による清酒造りをスタートさせました。時代が求める清酒を生み出すために立ち上がった梅乃宿の若き作り手たちによる座談会で、この間の経緯や思い、今後の目標などを聞きました。

 

座談会出席者
製造部 部長:桝永 剛
日本酒製造課 課長:上田 和彦
企画開発部 課長:播野 真平
代表取締役:吉田 佳代

 

———杜氏(とうじ)制度廃止に至った経緯を教えてください。

吉田:プロフェッショナルとして清酒造りを統括する杜氏は、会社に例えれば社長です。そうした絶対的な存在の杜氏の指示・号令のもと、蔵人が清酒を造るのが酒蔵の通例でした。しかし情報社会を迎え、梅乃宿の杜氏は他部署との交渉や会議への出席に加え催事に顔を出す必要性などが高まり、杜氏が酒造りに専念しづらい環境になってきているのを感じていました。

また、酒造りに関するさまざまな情報も増え、杜氏1人のアンテナで物事を判断するよりも、もっと多くの意見を集約する形でやってもいいのではないか、と考えていったのです。その頃の梅乃宿に、杜氏のもとで現場の頭として蔵人を取りまとめていた上田、上田と共に清酒製造を経験し経営にも携わる桝永、日本酒畑以外の経験も持つ開発担当の播野という30代後半の同世代3人がいたことも、決断の大きな要因になったと思います。

上田:会社として大きな決断なので、「今までと一緒ではいけない、変えていかなければ」と思いました。ですが酒造りは年季のいる仕事。頭をやっていたとはいえまだ若輩の自分が…と不安は大きかったですが、それ以上に、この3人ならいけるという期待が大きかったですね。

桝永:3人が呼ばれ、協力体制で酒造りに取り組むと聞いたのは2017年の5月。あと4カ月ほどで次の酒造りが始まる時期でした。社長から、酒を変えてかまわないと言われたのが心強く、上田さんと話すとやってみたいことや変えたいことがほぼ一緒だったこと、その新しい発想を、カンに頼るのではなく播野さんがデータで裏付けしていってくれるということで、「いける」と確信できました。

播野:確かに、3人なら面白いことがやれそうだと感じました。麹(こうじ)も酒母(しゅぼ)も醪(もろみ)も、酒造りはすべてお米ありき。そこで最初に、米にどれだけ水を吸わせるかという吸水具合からデータの基準を作っていきました。

上田:実際、毎年変化する米の出来具合なども、数字で共有できているので安心です。

———造り方、そして味を変えるというのは大きな決断ですね。

吉田:味は感覚的なものなので、言葉で表現するのは本当に難しい。杜氏に味の好みを伝える代わりに、蔵元自身が杜氏を兼任する酒蔵が増えているのはそのあたりも理由かなと思います。また、味の好みは時代によって変化します。梅乃宿が掲げる「新しい酒文化を創造する蔵」というコンセプトに合う酒を新たに醸していきたいと考えました。

上田:甘い酒が時代のニーズにあるのは確かです。醪(もろみ)を絞るタイミングが味を大きく左右するわけですが、かつては「清酒は辛口」というイメージが強く、少し寝かせて絞るのが昔ながらの造り方。逆に今は、すぐ絞っておいしい酒が求められているのを感じます。

播野:言葉では表しづらい味を表現するのに、データは1つの裏付けにはなります。ただし、酒造りにはさまざまな外的要因もあり、あるデータがこの数値を示しているからといって必ずその味になるというわけでもありません。データはあくまで判断材料の1つであり、数値ありきではないと思っています。

桝永:データを担う播野さんが、「この数値だからこうしなくては」と数字一辺倒ではなく、数字はあくまで1つの目安という感覚を持ってくれている。その点も、現場がデータをうまく活用していくのにつながっていると思いますね。

実際、新体制で造った清酒に対し、酒販店さんやお客さまから「変わったね、良くなったね」という声をいただいてありがたいと感じています。今はまだ試行錯誤中ですが、今後は「これが梅乃宿らしさだ」というものを造り込み再現し続けていくことが大事になってくる。その時もデータは大きな頼りになると思います。

吉田:数値はあくまで基準ですが、何もないと本当にカン頼りになってしまいます。数値をベースに、もうちょっとこうしようと考える。そのための基準ができたのは大きいですね。

———杜氏制度を廃止して、変わったと感じていることは?

吉田:以前は絶対的な存在の杜氏の指示のもとで動いていた蔵人から「こうやった方がいいと思う」と提案がどんどん出ていると聞いています。その提案が、今やっている方法より手間がかかることだったりするらしいんですね。

桝永:例えば、先ほど話題に出た味の決め手になる絞るタイミング。かつてはカレンダー通りに絞っていましたが、今は醪(もろみ)の状態を見て「今日絞ろう」と急遽決めたりしています。仕事の予定が急に変わるので負担にはなりますが、酒質を上げるために臨機応変にやるようになりました。

上田:思いついたこと、やりたいことはどんどんやって、だめだったら次へという雰囲気が生まれていますね。なぜやりたいか、自分で理由を説明して取り組むので責任感も高まり、自分たちのお酒だという意識が強くなったと感じます。引き継ぎのチェックシートなども、担当者の発案で自発的に作成するようになっています。

播野:トータルで酒質が良くなるのであれば、手間をかけてもやるんだという意識ですね。他部署から見ていても、清酒造りのメンバーの雰囲気が変わったのは感じます。

———当事者意識が強まったということですね。では今後、挑戦したいことは?

上田:従来とは異なる酒造りに挑戦している面があります。例えば、蒸米に種麹(たねこうじ)をふりかけて麹菌の繁殖を促す麹室(こうじむろ)の仕事。高温になる室で、夜中に蒸米をほぐす作業が欠かせませんでしたが、データを駆使することで水分調節が可能になり、夜中の作業が不要になりました。

吉田:省略ではなく、省力化ですよね。省略は本来であれば必要な工程を、人の都合で省いてしまうことです。また省力も手を抜いているとイメージされるかもしれませんが、例えば重いものを人が階段で上げるよりもリフトで上げる、人が走って行って温度計をチェックするよりも一箇所で温度管理をできた方がいい。そういった道具や設備の改善は今後、どんどん進める予定です。

桝永:省力化・効率化して身体的に楽になった分、より良い酒造りのために全員が知恵を絞る。この発想が大事ですね。

播野:その一助をデータが担えているのは正直うれしいです。梅乃宿は今、従来の酒造りの教科書とは違う、さまざまな造りに挑戦しているので、その経験を次に生かせるようにしっかり蓄積していきます。

吉田:今年造ったこのお酒が良かったから来年も同じ味を、というのは、当たり前のようにみえて実はとても難しい。それが、お米の出来や気候などに大きく左右される酒造りです。携わる全員が「自分の酒」と当事者意識を持って技術を高めていくことで再現性が高まり、「こういうお酒を作りたい」と思った通りのお酒を醸せるようになる。そのための力がどんどんと高まっているのを感じ、心強いです。